時間差で動きを表す

松永です。
 
 
『富嶽三十六景 駿州江尻』
 
 
北斎の傑作の1つに
数えられる作品です。
 
 
旅人たちの様子から
強い突風が吹いたようです。
 
 
頭巾をかぶった女の懐紙(かいし)が
バタバタと右上に飛んでいきます。
 
 
中央には菅笠(すげがさ)を
押さえる前に飛ばされてしまった
男がいます。

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連写による時間表現

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それぞれの人物の一瞬の動き
がとらえているように見えます。
 
 
しかし2つの場面には若干の
時間差を感じます。

懐紙と菅笠を見あげる人物と
同じように私たちの視線も右上に
導かれます。
 
 
その目の動きに動きによって
時間を感じるのです。
 
 
連写写真を見ているような
感覚になります。
 
 
そして笠を飛ばされている男の
左手は手前を向いています。
 
 
飛ばされないように笠を押さえ
ようとした瞬間笠は上空へ吹き上げ
られたのです。
 
 
ここにもわずかな時間差を感じます。
 
 
「あっ」という間にいくつかの
場面が繰り広がられています。
 
 
一瞬というよりは連写のように
表現されており、わずかな時間差
を感じさせているのですね。
  
 
そのことが、また画面に動きを
つくりだしているのです。

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7に込められたもの

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街道を旅する人は7人です。
 
 
ここに北斗七星を信仰の対象とする
妙見信仰があらわされています。
 
 
北斎は熱心な妙見信仰信者で
絵の中に7の数字を仕込む例が
いくつかありますが、この作品も
その1つです。
 
 
人物で表される7つ星は北辰
(北極星)を中心にして回ります。
 
 
不動の北辰を富士山に見たてた
とも考えられます。
 
 
画面右で強風に吹き飛ばされ
まいと男が尻を突きだしています。
 
 
草が生い茂っている湿地帯を
入り江と考えてみると題名の
「駿州江尻」に掛けている
と思えなくもありません。
 

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