松永です。 岩の陰からヌーッとあらわれたか 河に浮かんでいるだけなのか。 男が米のとぎ汁を捨てていることから 時刻は早朝のようです。 北斎の富嶽三十六景 『常州牛堀』(じょうしゅううしぼり) 1833年頃制作 この舟、ここで停泊していた のかもしれません。 とにかく静かです。 とぎ汁が水面に落ちる音で おどろいた2羽サギが羽ばたいて いきます。 とぎ汁が水面に落ちる音 羽ばたくサギの羽音 聞こえる音はその2つだけ。 シーンとした朝がみごとに 表現されています。 さて、 この絵はとても大たんな 構成がつかわれています。 舟の先が対角線におかれ右下で 大きくはみだしています。 ========================= 浮世絵でよく使われた 画面からはみ出させる構成です。 ========================= 浮世絵は19世紀の西欧の 若い画家に影響を与えたことで 知られます。 印象派の大巨匠モネも その1人でした。 モネの 『舟遊び』(ふなあそび) を見てください。 〈『舟遊び』 クロード・モネ 1887 年〉 ========================= この構図は、北斎の絵から そのまま引用しています。 ========================= モネは浮世絵の大ファンで 奥さんに着物をきせた絵を描いて いるぐらいです。 西洋絵画では主人公のモチーフを 画面枠で切りとることは 考えられませんでした。 少し前の時代に描かれた 船の絵を見てみましょう。 〈『ドルトまたはドルトレヒト』 ウィリアム・ターナー 1818年〉 ========================= 軍艦とボートという違いは あるのですが、こちらは船が 画面中央近くに置かれています。 ========================= こちらが伝統的な構図です。 現在のわたしたちが見ても こちらの構成の方がなじみやすい のではないでしょうか? いっぽう北斎の方にはドキッ とさせる刺激があります。 いつの世も名作は 新しく感じるものです。
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