北斎は北辰菩薩に祈願して絵師として人気が出たため、熱心な北辰信仰の信者になったようです。
北辰信仰は北極星や北斗七星を神格化し信仰の対象としており、「北斎」の雅号も北辰信仰に由来します。
そこまでくれば絵の中にも何かあると思うのは当然でしょう。これまで何枚か見てきましたが、いずれも絵の中には人物の配置や数によって北斗七星が描きこまれていました。
今回の絵は富嶽三十六景の『東海道吉田』です。吉田宿の不二見茶屋から望む富士山を描いています。吉田宿は江戸から300kmほど離れている現在の愛知県豊橋市にありました。地名としては残っていませんが吉田神社、吉田城などがあります。
茶屋は「不二見茶屋」というだけあって富士山の展望所のような造りの建物です。
画面左下には駕籠かきが2人いますが、1人はわらじを柔らかくするために木槌で叩き、もう1人は手ぬぐいで頭をふいています。
富士を眺める2人の女を乗せてきたのかもしれません。お茶を持ってきた茶屋娘が富士を指差して「あれに見ゆるが不二にございます」と教えているようです。
話を北斎の北辰信仰の対象である北斗七星にもどしましょう。画中の人物は7人ですが北斗七星の置き換えの可能性があります。線で結ぶと北斗七星に見えてきますがいかがでしょうか。
店の外には看板が2つあります。上には「御茶漬け」下には「根本吉田ほくち」とあります。吉田宿ほくち(火口)の名産地でした。
「ほくち」とは火打石や火打鉄で起こした火を最初に着火させる燃えやすい燃料のことです。現代の私たちにとってはまったく関係のないものになってしまいましたが当時は必需品でした。
向かって右側に座る2人はキセルをもって一服していますが、吉田のほくちを使っているのかもしれませんね。
彼らの菅笠(すげがさ)には版元を示す「永」(永寿堂)と版元印の山形に巴が見えます。これは版元からの指示でしょう。浮世絵は広告媒体でもあったわけです。
余談ですが女性を乗せたと追われる駕籠の料金は現代のお金に換算すると1里(4km)1万円です。タクシーならば2千円弱なので、2台使ったとなればなかなかのお金もちということになりますね。
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